人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、くるり先生!
「このマンガがすごい!WEB」連載時から注目を集め、現在、大好評発売中の“飯テロ”ファンタジー『異世界居酒屋「のぶ」しのぶと大将の古都ごはん』。
原作小説のイラストレーターでもある転(くるり)先生自らが、初のマンガ連載に挑戦し超話題に! 初めてだらけのマンガ執筆に苦労しつつも、10万部の大ヒットになった本作についての気持ちを、くるり先生にうかがってきました。
初めてのマンガ連載で直面した難しさとは?
——コミックス発売、おめでとうございます。イラストレーターとして活躍されてきた先生にとって商業作品でマンガを描くのは『古都ごはん』が初めてだったと思いますが、苦労したことや学んだことはありましたか?
くるり たくさんあります(笑)。まずはマンガを描くための知識がないところからのスタートだったので、とまどいや驚きの連続でした。
——どのようなところで驚かれましたか?
くるり 最初はページの左右や見開き、ページをめくることなどをあまり意識せずに描いていて……なので1話のネームは何度も描きなおしました。描きなおすうちにコツが掴めてきて、2話には見開きで古都の街中のシーンがあるのですが、経験を活かして全体をバランスよく描くことができました。3話あたりからは蝉川先生が作ってくださった原案を、マンガに適した形にすこしずつアレンジしたり、工夫もしています。
——たしかに、回を増すごとに様々な演出や見せ方があって、読みごたえがありますよね! ちなみに、蝉川先生の原案から大きく変更した部分などはあったのですか?
くるり 3話はだいぶ変わりました! しのぶのお見合いの話も最初はなかったですし、コローナの孫も登場していませんでした。4話はその逆で、原案を活かしたうえで、自分が描きたかったしのぶと大将、そしてエーファの関係性を描けるようにプラスしていったイメージですね。
——どちらも好きな話なのですが、その2話のなかで先生の描きたかったシーンや思い入れのあるシーンなどはありますか?
くるり 4話でエーファちゃんの泣き顔が描きたいな、と。4話で初めてネームが一発で通った時は本当にうれしかったですね。初めてづくしではありましたが、こうやって手探りでマンガを描いた感じです。
——おひとりでマンガを描いていくのは大変だったと思います。
くるり そうですね。友だちが手伝うって言ってくれたんですが、自分自身が初心者なので、何をお願いすればいいかがわからなくて、結局自分で全部描きました。だから、いつも時間との戦いでしたね。月に1~2回締め切りがあって、1話がだいたい16ページなんですが、1話ごとにかけられる日数が限られているので、短い時間で手を抜かずにどう仕上げるかをいつも悩んでいました。
——なるほど。ちなみに、先生の絵はとても温かみがあり、かつ、やわらかなタッチで描かれていますが、マンガを描く際は、アナログですか? それともデジタルでしょうか?
くるり 『古都ごはん』の原稿は最初全部アナログで描いていて、途中からデジタルに移行しているんです。なので絵柄がけっこう変わっています。4話はアナログで描いたものをスキャンして作業していましたが、5話からはフルデジタルで描いていました。デジタルの作業はWindowsのデスクトップで、モニターを2台つなげて描いているのですが、大きなコタツの上にパソコンを置いて作業しています。
——先生が『古都ごはん』で気に入っているところや注目してほしいシーンを教えてください。
くるり どの話でも、その時の自分の精一杯でやっているんですが、今読み返すと妙な恥ずかしさがあります……。気に入っているのは見開きのページです。全体的に見開きで描いたページはよくできていると思うし、描いていて楽しかったです。『のぶ』の原作小説では主に居酒屋の店内でストーリーが展開していくので、古都の街並みを描くことがあまりなかったんです。だから、2話の市場の様子や、描き下ろしの閑話で描いた古都の通りの様子は新鮮な気持ちで描くことができました。WEB連載では載せていない部分なのでぜひコミックスで見てほしいです。今回描いてみて、背景を描くのが楽しく感じました。
——料理の絵もたくさん描いていますよね。どれも本当においしそうです!
くるり もちろん、料理を描くのも楽しかったです。小説では文章表現で人の気持ちを描いていくわけですが、マンガでは絵で表現するわけです。たとえば6話のお話ではビョェルンというおじさんが出てくるんですが、彼の感情と料理とを合わせて描いています。天ぷらを食べておいしいと感じて、満足している表情をさせて、つるっとした頭を光らせたりして。
——光り輝いてますね(笑)。
くるり はい(笑)。さらにそのあと、ハモの吸いものを飲んだところで、今度はほっと一息ついてから、しんみりとした雰囲気に……この落差をつけられたことで、うまく話がまとまったな、と感じています。
——料理によって、人の気持ちは変わりますからね。ちなみに、くるり先生が好きな居酒屋メニューを教えていただけますか?
くるり 玉子焼きですね、大好きなので絶対頼みます。厚焼き玉子もだし巻き玉子も両方好きですが、ふわふわしているだし巻き玉子が好きですね。とろとろしている食感が第一です。甘めのだし巻き玉子に醤油を垂らした大根おろしをのせて食べるのが、最高です。
——甘みと塩味が生み出すハーモニーがたまりませんね、じゅる……失礼、想像しただけで涎の出るすばらしすぎるチョイスだと思います! 長々と余計なことを言ってしまいましたが……では、あらためて、コミックスになった『異世界居酒屋「のぶ」 しのぶと大将の古都ごはん』を手に取って、感じたことなどをお聞きかせください。
くるり 感慨深いですね。けれどWEB連載の時と比べて、紙に印刷されたものはごまかしが利かない感じがします。印刷されたものって、やっぱりじっくり見てしまいますから。ただ、マンガを読んだ時に、『のぶ』ファンの方々に喜んでもらえるような工夫をいろいろ描いています。それを見つけてもらえら、うれしいです。
キャラクターづくりの裏側や、カバーを取った表紙に描かれた『異世界居酒屋「のぶ」』アナザーワールドの制作秘話などをうかがった、インタビュー後編は6月9日(木)公開予定! こちらもお見逃しなく!
取材・構成:岡田勘一